オオカミの遠吠え通信

限りなくブラックに近いグレー。

お金、貸せますか?

さほど親しくもない相手から「お金を貸して欲しい」と言われたことがある。

勿論、問答無用で断ったが。

 

相手は当時勤務していた会社の技術系社員。

直接現場に出勤するので、月に一回程度しか顔を合わせない。

会社の飲み会でも殆ど話をしないし、どちらかと言えば苦手なタイプだった。

そんな人がいきなり「お金を貸して欲しい」と言う。

後で知ったのだが、既に複数の人(社内だけではなく、取引先にまで)からお金を借りており、どうにもならなくなって私に声をかけたらしい。

本音を言えば「あんたに貸せるお金は一銭もない」と怒鳴りたかったが、生憎私は事務所で電話を受けていた。

下手に大声を出すと周囲が不審に思う。

そこで低めの声で「今物入りなので、お金は貸せません」と伝えてみる。

「幾ら必要になるかわからないから、出来るだけ残しておきたい」とも。

すると相手は「カードで良いんだけど」とのたまう。

キャッシングを利用すればお金を借りられる。

そう言いたかったのだろう。

面倒な奴だな、と心の中で舌打ちする。

そもそも信用出来ない相手にお金を貸す馬鹿が何処にいるのか?

いや、相手が恋人であってもお金を貸す気はさらさらない。

どうしても必要なら金融機関から借りれば良いのだ。

喉元まで出かかった言葉をぐっと呑み込み、やがて私は静かに答えた。

「カードは持っていない」

「一枚もないの?」としつこく聞いてくるので、何も言わずに受話器を置いたことを覚えている。

 

その後、その社員は金銭トラブル(詳細は知らない)が原因で懲戒解雇となった。

理由はどうあれ、手当たり次第に金の無心をした罰だよ、と当時の私は思った。